◆ ベルギー カラーダイヤモンド買い付けレポート 2003年3月  Page: 1 2 3 4

ベルギー名物と言えば・・、チョコレート。
そして二つめは、“働き者の女子社員”これも相当有名だ。知人の事務所に電話して、
”Can I talk to Mr.○○?”
“He is out now.”
“What time does he come back?”
I don’t know.
「知りまへん」って、なんやおいその言い方は、なんていちいち怒っていてはベルギーで仕事できない、こんなのはまだまだ序の口。メッセージをお願いして伝わっている可能性?針の穴にラクダを通すくらいのものか!?Sの事務所も残念ながら例外ではない、行く度にSから不満を聞かされるしウキ氏も多少「被害」を被る。買い付け商品のリスト作成と金額の計算は毎度数箇所の入力ミス、プリンターで出て来た書類を入念にSとチェックするのが1日の最後の日課になっている。
毎朝笑顔で“Good morning, Sir”、夕方帰る時には“Have a nice evening”(これが欧州大陸流サヨナラの言葉、英米とは少し違う、念のため)と言ってくれるのとギャップがありすぎて調子が狂ってしまうのだけども、日本であれだったら、どんな仏のような上司でも『君なあ、ええかげん気イつけや、ホンマはなしにならんでえ』くらいは言うだろうし、ウキ氏であれば『アホ、やめてまえ!』となるに違いない。ところがベルギーではウキ氏のような上司は経営者からお叱りを受ける、『やめてまえ!』と言われたら大抵喜んでバイバーイ、会社都合の解雇は退職一時金の積み増しと退職後約1年間元給与支払いを意味するからだ。お姉さん方がのさばるのは当然の成り行きと言える。景気も大して良くないし次の仕事を見つけるのはそう簡単ではないことが一定の歯止めになっているけども。このような行過ぎた雇用制度がベルギーの経済成長の足枷となっているのは言を待たない、仕事の効率ダウンにプラス(いやマイナスか?)いない人間の給料を払わなくてはならないのだから企業収益は悪くなる→政府の税収不足→消費税アップ→消費の減退→企業収益悪化→税収不足→消費税十数パーセント、という悪循環を辿ってきてしまった。結局ゆきつく先はこのようなものでしかない。甘い部課長が増えていると言われる我が国、なんとなく日本の将来を見ているようで不安になった。
どこかに骨のある管理職はおらんのかと思っていたら、ある事務所でおもろい会話に遭遇、時期はずれだが、去年‘聞いてしまった’インド人上司とベルギー人女子社員のトークを南船場ふうにアレンジ。
『なんやキミ、クリスマス休暇取るんか』
『当たり前ですやん』
『毎日クリスマスしてるやないか』
『アホなこと言わんといて下さい』
『キミの電話は遊びの話ばっかりや』
『なんでわかりますの、そんなこと』
『あのなあ、ワシかてこっちの言葉ちょっとは理解できるんや』
『・・・・・』
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・ ・日本経済は女子社員の働きにかかっておりますぞ、OLの皆さんふぁいと!

2003年2月24日、
関西空港、
毎度おなじみの旅立ちで申し訳ないと思いつつも、やはり旅の起点はここ、はずす訳にはゆきまへん。
日ごろ全く縁のない空港内の和菓子屋に立ち寄る。1週間ばかり前、メールで‘我が師’と書こうとしたら和菓子と漢字変換、それから妙に和菓子という言葉気に入ってしまった。師が師である所以は、時に心にスイートで奥深い味があるということか、などと思ったり。いずれにしてもウキ氏には縁のない言葉であるが。縁がないはずの和菓子をなぜ一所懸命見ているのかって?れいによってれいのごとく、性懲りもなくまたベルギー在住の日本人女性とつきあっているSが前日TELしてきて、『彼女のためにJapanese Sweetを買ってきてくれ』とぬかしやがったのだ。ヨーロッパの男は何故こうも女に甘いのか、だいたい客よりも自分の女のほうが大事というのをはっきり見せるのが気に食わない。角砂糖の詰め合わせでも持って行ってやろうか、その方がお似合いだと思ったがつまらんことはヤメと思い返した次第。強くないとは言え一応砂糖ではなく“左党”のウッキー、和菓子といわれ『何がなんだか』である。家内に聞くと、「きんつば」「いちご大福」あたりがええのとちゃうか、というわけでそれらを捜しに来たわけだ。
こうして見ると和菓子はやっぱり綺麗やねえ、奥ゆかしい色使いとデザイン、包装紙までしっかり気を使われたトータルな美しさに束の間日本人としての誇りを感じるウキ氏である。

機内は満席、KLMばかりがどうして儲かる、みたいな錯覚にとらわれながら、ほぼ11時間喋り通していた横のお姉さん方に悩まされながら、なんとかアムステルダムに到着。月曜の午後ということで何か閑散としている気がする。恐らくヨーロッパは旅行のOffシーズンなのだろう。皮肉なことに、気温は14度とか、大阪や東京よりも暖かいことは間違いないだろうし、この時期オランダがこんなに気温が上がるなんて薄気味悪い。
夕方5時半頃Antwerpのホテル到着、旅装を解く前にSの事務所へと出かける。Sが挨拶もそこそこにウキ氏の手から和菓子を引ったくっていったのは言うまでもない。ホンマしかたのないやつ、こんなんやからいつまでたっても独身なのだ。市場の動向とSの在庫状況を確認したあとホテルに戻る。真夜中に隣の騒がしい話し声で目が醒め朝までモンモンと過ごす。どこまでも騒音に悩まされる日であった。

2月25日火曜日。
いつの間にやら本当のカラーダイヤ屋になってしまったウキ氏である。
www.colordiamond.co.jpというのを取得した時にはまだまだ自分自身でも半信半疑、今となったら先見の明ありと胸を張れるが、こんなにカラーダイヤに染まってしまうとは想像できなかった。自慢じゃないが、いわゆるクリニッシュと呼ばれるブライダル用のダイヤ、DEFカラーVVS,VSのExcellentなどのことだけども、そのようなものはここ数年見た記憶さえない。当然ながら相場観は全くない。ただ風の便りに聞くところによると、深刻なデフレと供給過剰から大きく値を下げていたクリニッシュの価格がここにきて下げ止り、一部のアイテムは値上がり傾向を見せているとか、これが景気回復の一端ということであれば良いのであるが残念ながらそうではなく、日本国内の価格競争にイヤ気をさしたクリニッシュバイヤーたちの買い控えが高じた挙句のことらしい。我々の業界ではクリニッシュは通貨と同じである。AGT、中央宝石、全宝協などの大手鑑定屋のグレードがついていれば南船場や御徒町の問屋で、その日の相場により直ぐ現金に換わる。ただこの相場というものが、日経新聞に載る金やプラチナのようなある程度オフィシャルなものではなくて、業界内で配布されている価格リスト表を元にしているものであるから問屋によって“換金率”は多少変わってくる。資金繰りに困った宝石屋がそのようなものを大量に持ち込めば一瞬にして相場が大きく崩れてしまうのはよくある話である。

ウキ氏がカラーダイヤに大きくシフトしたのはそのへんの事情が大きな要因である。
ベルギーやイスラエルの情況により相場が変動しバイヤーがそれに順応しないといけないというのは至極当たり前、しかし100%輸入品でありながら国内のつまらない事情でせっかく買い付けた商品が僅かの間に相場に合わなくなったなんて全くナンセンスな話である。カルチェやルイヴィトンが日本のデフレにより大きく値下がりした、なんて話は全く聞かない、国内に不要というならともかく輸入品である以上原産地や輸出国の情況で大筋の価格が設定される、そのような普通の商品を扱いたい。そう思って始めたカラーダイヤ、参考にしたL氏の事務所に当然ながら出向く。

いつも凄いモノを見せてくれるL氏の今回の“スーパー”は、
Fancy Deep Green Blue 1.34crt 買えない代わりにGIAの鑑定書のコピーだけでも付けておこう。世界中の“スーパーグリーン”の6割はこの事務所にある、と豪語するL氏、ホント半端な美しさではない、ブルートパーズをもっと宝石らしくしたような感じ、としか言いようのないBeautyである、表現力が足りない・・。さて、気になるお値段は?
$350,000/crt。このお値段に1.34と今日の為替相場を掛けてみてください。
他の事務所でFancy Vivid Blue, Internally Flawless, 1.51crt$150,000/crtというのを見たけどもL氏のモノの方が10倍くらい綺麗だった。もちろんVividBlueも相当のモノ、
“燃えるように凍っている”という表現がピッタリとくる強烈な商品であったが。ダイヤの場合ブルーよりもグリーンのほうが色にインパクトを感じる。蛍光性の強いものが多いということもあるだろうし、見ための明るさという点で優っているということが大きいのかもしれない。クールなイメージのブルーは冬の湖を連想させる、グリーン系はやはり若葉、春から初夏のイメージだ。
鑑定書



鑑定書

ウキ氏の扱う範囲の物ではグリーンのいわゆる純色、Fancy GreenやFancy Deep GreenとAGTでグレーディングされるものはほぼ出てこない、せいぜいFancy Intense Yellowish Greenが関の山、この関所はレッドやヴィヴィドブルーよりも数倍いや数百倍難所と言えるかもしれない。

2月26日水曜、
ピンク系のものに関して述べないといけないだろう。
Argyleが世界有数の鉱山会社Rio Tinto(リオ・ティント)に買収されてもう1年くらいになるのかな、ピンクダイヤのルース販売会社Argyleの名前はそのまま使われているけども、システムと在庫、価格が全く別の会社ものになってしまった。Argyle専属のブローカー(二人いる彼らは以前と変わらない)に聞くと親会社リオ・ティントはCut&Polishされたダイヤにはあまり興味がないようでAntwerpでは専ら原石を販売する事に力を入れている―もちろん色が素晴らしいものは自社で研磨しているのだけども― そのせいで商品内容が著しく貧弱になってしまった。かつては彼ら二人のブローカーから諸々あわせて数万ドルを買い付け他社のピンクはほとんどやらなかったウキ氏だが、今回のピンクは全く逆、原石はArgyleのものだろうけどもArgyleから直接買った物は0だった。彼らブローカー氏たちもホント気の毒、以前は我々の指値をエリア内の事務所にいるマネージャー(アントワープ支店長)に伝えての値段交渉であったが、最近はいちいちオーストラリア・パースの本社にお伺いをたてている、なんと不合理なとあきれてしまうが、親会社の経営陣の中にブローカーを使っての販売ということにどうも馴染めない人間がいるそうだ、ブローカーという我々の業界独特のシステムを承認する代わりにネゴの情況を事細かく本社と連絡を取れ、ということらしい。ご存知のようにオーストラリア時間は日本とほぼ同じ、ヨーロッパの朝はオーストラリアの夕方、朝一番からなかなか商売は始まらないから当然ネゴの結果を聞けるのは翌日になる、今日びのこと通信代なんて安いものだが翌日「あと100ドルや」とか言われてもピンと来ないし、その間他社から同じような物を買っていれば「もうええわ」となる。よしんば「ハイOK」と言われたところで気分も変わっている、「しもた」となって「次回からかなり慎重にOfferせんとアカンな」となる。この馬鹿げたシステムを改めない限りArgyleアントワープ支店は閉鎖となること間違いない。

こんな具合だから、アントワープのいろんな会社がArgyleから原石を買ってピンクを研磨し始めた。これが良いのか悪いのか?なんとなくバリエーションが増えた(色の雰囲気はもちろんだけども、カット等も)ような気がする。価格的には今のところピンクに関してイリュージョンを持っている業者が多いせいで、メチャ高バカ高クレージーなど等なんでもあり。値踏みのやり方がそれぞれ違うから時にはえっ、というような楽しい物もあり―これは多分にウキ氏の思い込みであろうが―、やはり独占が崩れ資本主義市場原理が働いた方が健全である事は言うまでもない、多少の時間は掛かるだろうけども、そのうちに成熟した価格帯が出来るに違いない。それにはピンクダイヤ鉱山が枯渇しないという絶対条件があるが(これに関してはまだまだ未知数)。

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◆ Back Number ◆
2005.07 Cut & Polished in Belgium
2005.04 ルフトハンザで出国
2005.02 オリーブの漬物
2004.11 ベルギーの初冬
2004.9 上手なブラフの使い方?
2004.8 2004アジアカップ
2004.4 ゴールデンウィーク に オランダ を想う・・・。
2003.11 Believe me!
2003.7 Vacances!
2003.5 日本とベルギーの規範
2003.3 ベルギー名物と言えば
2002.9 空港のネーミングについて
2002.5 ワールドカップ
2002.3 ひな祭り
2002.2 ユーロとトラブル
2001.12 プリンセス雑感
2001.11 ニューヨークの思い出
2001.9 不景気とは
2001.7 女子テニスプレーヤーというのは宝石だらけで戦っている・・・。
2000.4 ファンシーカットの好みは各国でかなり違うようだ・・・。
2000.2 天然の物が相手になるがゆえのつらさ、というのが常にある。
1999.12 私はダイアモンド業界ではゴルフの世界の尾崎みたいなものだ、といって自己紹介することにしている・・・