◆ ベルギー カラーダイヤモンド買い付けレポート 2001年9月

ベルギーと日本の気候が一番違うのは多分今頃だろう。

大阪はいまだに日中30度、『残暑厳しく、、、』という季節の挨拶は本来立秋の後8月20日過ぎくらいまでの言葉であったはずが今では9月いっぱい使われているような気がする。

 カールトンホテル
9月5日、朝9時いつものようにカールトンホテルからSの事務所に出勤、カールトンといっても残念ながらかの有名なリッツカールトンではなく安物のビジネスホテルだ。長いことここばかり使っていてほぼ要領はつかめている。だから今更他の宿に泊まろうとは思わないけど、昨夜も隣の部屋のテレビの音に悩まされ、起きだしてシャワーを浴びれば湯の出が悪い。来るたびにいろいろ不満はあるが何せしがない零細企業のバイヤーである。贅沢は言ってられない。

 Sと私
「今日も元気でブイッと行こう」っと言っても空飛ぶアリナミンVがあるわけでなく一歩いて5分だからその必要もないがーとりあえず元気よく歩き出す。なっ、何とゆうべSと飲みすぎたせいか、まだ寝ぼけているのか、すれ違う人たちはコート、革ジャン、ブルゾン、オーバー、etc,冬の衣装のオンパレードだ。2,3度頭を振ってみたけどやはり現実。大阪の中高生は白の半そでシャツで登校しているはず、私のような軟弱な業界人も日本では当然半袖ノータイ、ここに来て3ヶ月ぶりにスーツとタイという普通のオッサンスタイルになったばかりだった。夏のバカンスが済めば冬はすぐそこ、北西ヨーロッパの人にはつらい季節の始まりだ。何のかのと言いながら秋を満喫できる日本人は幸せといえるかもしれない。

日本は今、不景気ということになっている。

しかし、この不景気だの不況だのという言葉の定義は何なのか。

白いご飯を食べられない人が100万人以上いるのか、近くのなんとか人民共和国ではあるまいしそんなはずはない。

若い人のバイトの先もないくらい失業者であふれているのか、それも聞かない、近所の大学生は夏休み中海辺で働いて真っ黒になっていた。

高校生が友達と遊びの約束や無駄話をするための携帯電話はいったい誰が買い与えているのか、キンピカの髪の毛にしてルイヴィトンのバッグを持ち歩けるのはどうしてか、食うに困っていたらそんなものには絶対にお金を出さないだろう。

世間で言うところのいわゆる一流エコノミスト氏はGDPの数字が1%下がったと大騒ぎである。1%、30万円の売り上げが29万7千円になった、500万の成約が495万になった、そんなことがそんなに大変なのか。

確かに運悪く勤め先が倒れたり、リストラになって失業したりという人々には同情する。けれども、大多数の人はヨーロッパやアメリカへの旅行代金が十数万で済むようになったり、ソニーのVAIOが安く手に入るようになったり、吉野屋の牛丼が280円で食べられるようになったり、ということを素直に喜んでいるのではないのか。

東京市場の株価が低迷して世界中大慌てである。日本通のSまでもがこのまま日本が奈落の底に沈んでいくのでは、と真顔で心配する。アメリカ人と違い日本人は株式市場にそれほど信頼を置いていない。当然ながら損する人はITバブルに踊った一部の投資家だけである。幅広い分野で世界の最先端技術をいくつも持つわが国の懐の深さをみんな過小評価している。世界中に投資しアメリカ財務省の債券を世界1多量に保持している我が国の国債がどうして格下げされてG7(主要7カ国)の中で最低ランクなのか。ホンマええかげんにせんかい、と怒りたくなる。

エコノミストというのは何か言っとかないとお金にならないから、当然つまらない予測をする、それをマスコミがいつものように大げさに騒ぎたて、正直者の消費者はえらいこっちゃ、と財布の紐を締め、という悪循環が徐々に広がってきている。必要以上に不景気を煽る者、特にカタカナの職業のやつらを今こそ糾弾しないといけない。(デザイナー氏ごめんなさい、あなたは関係おまへん、わしもバイヤーやったな)

私が初めてベルギーに出張したのは1985年11月、まだ関西空港はなく、ソ連は健在でビルゲイツがWindowsの発売を発表したころだ。大したもんやね。当時サラリーマンの私はベルギーから上司にテレックス(こんなもん今は聞いたこともない人の方が多いに違いない)を送り無事に到着したこと知らせたのだ。なんせ、その道行きたるや凄まじかった。シベリア上空を飛行できないものだから多くの欧州便はアラスカまわりだった。午後6時大阪伊丹空港発、成田まで1時間、そこで2時間待ちのあとアラスカはアンカレッジまで8時間、そこで1時間の待ち、そして9時間かけてロンドン到着、3時間の待ちのあとアントワープに30分の最後のフライトであった。さあ、いったい合計何時間?ほぼ丸1日である。

 アンカレッジ空港  アントワープ
 アントワープ中央駅前の私
 (1985)

それにエコノミーの真ん中の席でメチャつらい目をしたにもかかわらず航空運賃はなんと44万円だった。今じゃビジネスクラスでもこんなにしない。冬場のロンドンなら4人分の旅行代金だ。そう言えばあれから我が阪神タイガースはずーーーっと低迷、何も航空運賃と歩調を合わせなくてもええのにな。

関西空港からは今、KLMが週7便アムステルダムへ飛んでいる。ほかにも当然フライトはあるがベルギーへはKLMが一番便利だ。今年になってからはもう5回ベルギーに赴いたが、常にほぼ満席状態だ。前回の帰国便は満席プラス3であった。なんと離着陸のときに客室乗務員が座る席にまで3人ほど座らされていた。

しつこいけれど、こんな状態を不景気と言うのなら好況とは海外に日本人が溢れかえり、ブランド品を買いまくって金をばら撒き、世界中から失笑を買うことを言うのだろうか。それなら今の方がよっぽど健全だと思うのである。今はただバブルではないだけだ。

ディズニーランド、ユニヴァーサルスタジオ、キャッツの公演などなどKLMに限らず賑わっている所はたくさんあるし、ティファニーなどのブランドショップも完全に売り手市場だ。結局人の欲しがる物を提供しないといけないのであって、その意味では我々もまだまだ工夫が足らないという気がするのである。

一年ぶりにムール貝を食べた。ヨーロッパのどこが本場なのかよく知らないけれども多分ベルギーもその1つなのだろう。Sはこの季節2週間に1度は食べていると言うから我々が日本で牡蠣とかサザエとかを食べる感覚に近いものがある。しかし、その食し方は我々の場合とはかなり違っている。小型のバケツに殻つきで山盛りは入ったやつが出てくる。ベースとなるスープに浸かっているのだけれどもそのスープにはいろんな種類がある。私はガーリックのベースが好きだ。Sはトマトベースである。ムール貝は知っている人も多いと思うがあさりだの蛤だのという日本人が通常食する貝類とは似ても似つかない、あんまり美味しそうじゃない見かけである。でもこれを一つ一つフォークで取り出して赤ワインと一緒に食べ出したらもう止まらない。レストランでなかったら子供のように口の周りとテーブルをベトベトにしながら恐らくSのバケツにも手を伸ばして行儀悪く食べていたに違いない。急に寒くなって風邪をひき鼻ばかりかんでいるSを気にもせずひたすらムール貝と格闘する私であった。

ところで仕事のほうは?
 ムール貝


◆ Back Number ◆
2005.07 Cut & Polished in Belgium
2005.04 ルフトハンザで出国
2005.02 オリーブの漬物
2004.11 ベルギーの初冬
2004.9 上手なブラフの使い方?
2004.8 2004アジアカップ
2004.4 ゴールデンウィーク に オランダ を想う・・・。
2003.11 Believe me!
2003.7 Vacances!
2003.5 日本とベルギーの規範
2003.3 ベルギー名物と言えば
2002.9 空港のネーミングについて
2002.5 ワールドカップ
2002.3 ひな祭り
2002.2 ユーロとトラブル
2001.12 プリンセス雑感
2001.11 ニューヨークの思い出
2001.9 不景気とは
2001.7 女子テニスプレーヤーというのは宝石だらけで戦っている・・・。
2000.4 ファンシーカットの好みは各国でかなり違うようだ・・・。
2000.2 天然の物が相手になるがゆえのつらさ、というのが常にある。
1999.12 私はダイアモンド業界ではゴルフの世界の尾崎みたいなものだ、といって自己紹介することにしている・・・