◇◆  ファンシー ストーリー第6話  ◆◇


Light The Fire Within(内なる火をともせ)、
きらめく青い照明とオレンジ色の炎の中、ソルトレイクシティーで冬期オリンピックが開幕しました。
アメリカの威信をかけてブッシュも気合が入っている様子、自国選手団の真中で開会宣言をしてたのがなんとも彼(か)の国らしいところです。
多くの日本人には先の長野五輪の感動的シーンがまだ強く残っているようですが、私にとっては1972年の札幌の方が印象深い、自国開催の五輪を初めて見たからだと思います。1964年、東京オリンピック開催、この時は6歳。今では信じられないことですが、"オリンピックをテレビで"、という電機メーカーの広告が功を奏し、かなりの人がこの時初めてテレビを購入しました。我両親もその中の一組。『開会式くらい見ときなさい』という親の親切な言葉は全く無視、私は外に遊びに行ったのを今でも思い出しては後悔しております。
そんな訳で札幌五輪の美しさというものがよけい頭の中でクローズアップされているのでしょう。無名の女子フィギュアスケーターが白いコスチュームで聖火を持って競技場に現れた時の感動は今でも忘れられません。

でも、オリンピックの開会式は随分と様変わりしましたね。
現在お馴染みのスタイルは1984年のロス五輪からです。それまでの開会式は甲子園の高校野球のそれとまあ似たようなもの、ファンファーレが鳴って選手が入ってきてお偉いさんのスピーチがあって鳩や風船が飛んで、そして聖火が入り選手宣誓し・・・というやつでした。1960年から70年代にかけてオリンピックを開催したところはどこもかもとてつもなく大赤字、札幌の次の開催地に決まっていたアメリカのデンバーはそれを懸念し開催地を返上、いったいどこがババを引き当てるのかというすったもんだの結果、しかたなくという今では考えられない経過でインスブルックだったかな、とにかくそのようなヨーロッパの町で1976年の冬季五輪は開催されました。大阪もその頃に立候補しておればね、話は実に簡単だったようやね。この状況はロス五輪を境に180度変わります。アメリカは、やり手の実業家ピーター・ユベロスというアイデアマンを五輪組織委員長に任命、彼は期待に応えスポーツの祭典をりっぱに儲かるビジネスに変えました。具体的にはテレビ放映権の高額販売、スポンサー料の徴収、五輪公式マークの使用権料設定等、今では当たり前の事ばかりですが最初にやったユベロスさんはすごいですね。なんとなんとロス疑惑の三浦は・・・ではなかった、ロス五輪は数百億の黒字を出し、このあと異様なまでの五輪誘致合戦へと問題は別の方向へと行く事になります。ユベロスさんはこの功績を認められあとにメジャーリーグのコミッショナーに転進することになりますが、彼がテレビの力を十二分に発揮させたのが五輪開会式。厳粛なセレモニーをアメリカ的な派手なショーに変え、これら一連の成功がその後のオリンピックにそのまま受け継がれていったというわけですな。
18年前のロスではかなり衝撃的なショーであった開会式ですが、今回はなにかNFLのハーフタイムショーをいくつも見せられているようで、ちょっとウンザリ。
でも、ありふれた表現を使えば「光と音のファンタジー」、照明と音楽、出演者たちの色鮮やかな衣装、その3つを堪能できたのでは。
オレンジ色の光の爆発から始まり、青い照明の中で選手団の入場がスタートしましたね。
『虹の地平を・・・、あふれる旗・・・、雪の炎ゆらめいて・・・、』
30年前の札幌五輪テーマソング「虹と雪のバラード」の一部です。これだけでも豊かな色彩を感じられますし、冬季五輪はバックがほとんど雪と氷ですからいろんな色がよく映えます。選手のウエアもカラフルで美しいですね。
開会式での目立ったユニフォームを拾ってみました。
オーストラリア、赤い大地をイメージしたということですが、私にはArgyleを連想させましたね。
ベルギー、前回長野で40年ぶりのメダルということです。ウエアも地味、選手の表情も地味、目立つわけはないのですが逆の意味で気になって、なんとも"らしい"です。
デンマーク、黒の上下に赤いマフラーと帽子が目を引きました。
ちょっと奇抜と言えば、韓国とモンゴル、民族カラーを前面に押し出しておりましたね。
モンゴルは何百年前のジンギスカンもこんな感じかという雰囲気を漂わせ、です。出来たら馬に乗って出てきて欲しかったのですが。
誰もが期待を持って見ていたのがフランスとイタリアだと思うのですが、両国とも非常にカジュアル、我々が家でコタツに入っているときのカッコ、あるいは近所のスーパーへ買い物にでも出て行くような感じ、奴等でなかったらセンスが悪いとこき下ろされるのでは。

雪の王者ノルウエー、氷の王者オランダ、両者とも既に臨戦体制。いつでも戦えるようなウエアです。両国民はそれぞれスキー、スケートを履いて生まれてくると言われておりますが、さもありなんですな。大阪には電卓を片手に生まれてきたというようなやつ等がたくさんおりますが。私の場合は文庫本を小脇にはさんで生まれてきたのでは、とよく言われております・・・なんか、ヒュウっと冷たい風が吹き抜けたような気がしましたが、、。冬のオリンピックですからね。ええっと、、
ロシア、暖かそう、かつてソ連時代には女性の下着は3色スリーサイズしかない実用本位、だったそうですがその伝統は今でも健在のようです。

スイス、ロングコートとその裏地の赤が印象的。
スペイン、スウエーデンと続けて入ってきましたが両者の黄色の使い方、彩度が好対照。
スペインはインテンスでしたね、地中海の明るい太陽を思い起こさせます。それに対して、
スウエーデンの黄色は柔らかいレモン色、同じヨーロッパでもあれだけ違うのかと感じた人も多かったと思います。
イスラエル、好きな国だけにどうしても贔屓目で見てしまう、ここのはウエアというよりも国旗の青が素晴らしい、白地に青のダビデのマークですが、あの青ホントすごい青です。あんな美しい青はあまりないと思うのですが。
セレモニーのマスコットであった子供たちの白いウエア、どちらかと言うとアイボリーかな、これも可愛かったですね。1984年のサラエボ冬季五輪では開会式を盛り上げた女子高生たちの美しさが随分と話題になり、ユーゴというのはベッピンさんの宝庫やなと評判でしたが、あれから度重なる内戦、彼女たちはどう生き抜いたのかなどと思わずにはいられません。あふれる旗と多くの色彩は戦争でない証拠なのですね。

BGMのYanniサウンド、聞いていただきましたか。
私の一番好きなミュージシャンなのですが、日本ではあまり知られてないようです。ギリシャ系アメリカ人で、彼の創り出す音はホントそんなイメージで今回の五輪にぴったりと言えそうです。
でも、アメリカ人というのは全く服装の趣味が悪いと感じませんでしたか。あの選手団のウエア、おいおいパジャマちゃうんかい、という感じ。そして、聖火点灯のあと出てきた女性歌手、あそこで何故LightGreenの服なのか、舞台装置からもライティングからも全くかけ離れておりました。

さて我が国、森英恵さんをはじめとする世界的に有名なデザイナーを多数輩出しているにもかかわらず、いつもパッとしないユニフォーム。いったい何が原因なのか、多分日本選手たちの表情の暗さ、笑顔を振りまくでもない愛想のなさではないかとオリンピックのたびに思っておったのですが、今回はよかったね、みんな笑顔で。女子選手がかわいかったですね。やはり何でも明るい表情が大事と実感しました。
ジュエリーでも同じ、身につける人の性格と表情、気持ちが重要なポイントとなります。
極端な話、婚約指輪をしてる人で似合ってない人がいますか。もしそんな人がいたなら結婚を取り止めさせるべきですね。

さて、しつこかったショーにもそれなりに見どころはたくさんありました。
長野では日本の神事というテーマで開会式が進められ、横綱の土俵入りなどが粛々と執り行われましたね。アメリカは先住民インディアンとヨーロッパからの移民の国、二つの物語が進行しておりました。インディアンの音楽(特に笛の演奏)、ダンスはアジア的だと感じた人も多かったのでは。私はあの踊りはテンポの速い河内音頭ではないかなと、菊水丸がそのへんにおるんちゃうか、などと思いましたね。
関野吉晴のグレートジャーニーではないですが、やはりアフリカに発した人類がアジアを通過し、アラスカから米大陸に入った、というのはその通りなんだろうと感じますね。
ロス五輪でも少し前のアトランタでもいやほど見せられた"大草原の小さな家"の小ストーリー。今回は"ワイルドワイルドウエスト"や、という見方が多かったのですが、どう違いがあるのか私にはよくわかりません。


ファンシー屋の私を感動させたのは湖に見立てた青い氷の上に光があてられ、オレンジ色に変わる前、青からバイオレット、そしてパープルに氷が溶け込んだように見えたことでした。あれこそホンマにファンタスティック。

西部の野生動物を模した張りぼてはそんな重要な物なのか、まるで日本の運動会やないかいな、大年増になったクリスティー・ヤマグチのフィギュアスケートは必要性があったのか、わしの好みはカタリーナ・ビットや(これこそ古すぎるか)、などなど疑問点もいくつかありましたが、スティングの歌とヨーヨーマの演奏は実に素晴らしかった。メレダイヤの煌めきを連想させるスタンドの無数の輝きが彼等の音楽に非常にマッチしておりましたね。

この原稿を書いている時点ではまだ2日目の競技が終ったばかり。日本人が熱狂するのはもう少し先の事かと思います。
日本選手の先陣を切って里谷選手がまたやってくれましたね。
あのモーグルという競技、長野五輪で初めて知ったのですけども、その時のテレビ解説者が『すっげえー、やったぜ多英!』などと連発していたものですから、これはてっきり、いやその、何と申しましょうか、いわゆるひとつの、なんでしたかなあ、ええ、まあ、
はっきり言いますと、スポーツというよりはファッションというか、メチャマイナーなそのへんのにいちゃん、ねえちゃんのお遊び風のものやろ、などと失礼ながら思っていたのですけども、今回などはしっかりと市民権を得ておりましたね。
里谷さんの銅メダルはホント素晴らしい。
2大会連続表彰台というのはなかなかできるものではありません。前回の金は多分誰もが予想してなかったでしょうが今回は期待からのプレッシャーは相当なものであったはず、
それを乗り越えてのものですからね。競技終了直後の涙は本当に美しかった、まさに無色透明PearShapeのダイヤモンド、彼女には金も銅もよく似合うけど、ダイヤのネックレスもぜひつけていただきたいですね。
残念ながらメダルに届かなかったアイドル上村嬢、彼女はゲレンデの華、ピンクのピアスがよく似あうに違いありません。
私の好みはスケートの岡崎さん、
あのキリリとした眼差し、あなたにはぜひ両サイドがピシッと尖ったマーキースの指輪をつけ表彰台に上がってもらいたい、色はもちろん氷のようなBlue、それをしっかりとカメラに向けて見せてもらいたいものです。

Fancy Vivid Orange Yellowの聖火はかく燃えております。



◆ Back Number ◆
第20話 UKIカラーで綴った枕草子
第19話 古今和歌集ダイヤモンド語訳
第18話 2006W杯 × Fancy Color
第17話 That's Baseball
第16話 トリノの余韻
第15話 “The Aurora butterfly of Pease”
第14話 Fancy June ...
第13話 ウッキー夜話
第12話 『春のダイヤ人気番付』
第11話 2003年 南船場の秋
第10話 「白シャツ」と「白ダイヤ」にご注意。
第9話 初詣
第8話
第7話 日本の色
第6話 オリンピック随想
第5話 お正月に想う
第4話 ブルーダイヤ、高価とは聞いておられるでしょうがどれほど高価なのか・・・
第3話 同じ赤でもピンクダイアとルビーではかなり色に違いがあります・・・
第2話 新しい「誕生ダイアモンド」なるものを設定・・・!!
第1話 『fantasy』で『fantastic』な『fancy world』へ御案内。